アジアゾウの生息地はどこ?中国雲南省で出会える理由
「アジアゾウ」と聞いて、皆さんはどこの国を思い浮かべるでしょうか。動物園で見たことがある、という方は多くても、実際に野生のアジアゾウがどこに生息しているかを正確に答えられる方は意外と少ないかもしれません。
アジアゾウの生息地には、実はいくつかの共通した条件があります。まず欠かせないのが、豊富な水と植物です。成獣は1日に100〜150キログラムもの草木を食べ、200リットル近い水を飲むといわれており、これだけの量を一年を通じてまかなえる森林や湿地がなければ群れは生きていけません。また体温調節の仕組みが発達していないため、寒さに弱く、基本的には熱帯・亜熱帯の温暖な気候の土地でしか生息できません。さらに数十頭規模の群れで広い範囲を移動しながら暮らす習性があるため、開発によって森が分断されず、ある程度まとまった面積の生息域が確保されていることも条件になります。
こうした条件を満たす土地は地球上でも限られており、結果として野生のアジアゾウの分布域は、インド、スリランカ、そしてタイ、ミャンマー、ラオス、ベトナム、カンボジアといった東南アジア諸国、さらにマレーシアやインドネシア(スマトラ島の亜種)といった、南アジアから東南アジアにかけての熱帯地域にほぼ限られています。中でもインドは現存する個体数が最も多く、世界のアジアゾウ全体の半数以上を占めるとされています。世界全体での生息数はおおよそ4万〜5万頭程度と推定されています。
そしてこれらの国々に加えて、実はもう一つ、野生のアジアゾウが暮らす国があります。中国です。
世界最北端の生息地、雲南省
中国で唯一、野生のアジアゾウが生息しているのが雲南省です。雲南省は中国のアジアゾウ分布において、世界的に見ても最も北に位置する生息地とされています。現在の個体数はおよそ300頭。西双版納(シーサンパンナ)、普洱(プーアル)、臨滄(リンツァン)といったミャンマーやラオスと国境を接するエリアを中心に生息しており、中国国内では国家一級重点保護野生動物に指定されています。
熱帯・亜熱帯の気候が広がる雲南省南部は、アジアゾウが生きていける北限のぎりぎりのラインにあたります。つまり雲南のゾウたちは、この種にとって「最も寒い場所で暮らす」個体群でもあるのです。
世界を驚かせた「北上する象の大家族」
実はこの雲南のアジアゾウ、一度世界的なニュースになったことがあります。
2020年春、西双版納の自然保護区で暮らしていた15頭の群れが、なぜか保護区を離れて北へと歩き始めました。最初は誰も気に留めていなかったこの移動は、2021年に入って加速します。4月から6月にかけて、象の群れは実に約500キロメートルもの距離を北上し、人口846万人を抱える雲南省の省都・昆明市の目前にまで迫りました。
畑を横切り、村を通り抜けながら進む象の群れに、地元当局は緊急対応に追われました。400人を超える緊急対応要員と警察官が動員され、上空では延べ1000機近いドローンが群れの動きを24時間体制で監視しました。象を傷つけないよう、車両で道をふさいで市街地への侵入を防ぎ、道中には合計180トンにも及ぶ餌が用意されたといいます。
この一連の騒動は「北上する象の大家族」として世界中のメディアで報じられました。特に話題になったのが、長旅に疲れた象たちが寄り添うようにして眠る姿をドローンが捉えた映像で、この映像は世界中で再生され、閲覧回数は2億回に達したともいわれています。
そして2021年8月、群れは無事に元江を渡って南へと引き返し、西双版納の保護区へと帰っていきました。出発から帰還までの旅は実に110日間、移動距離は往復で約1300キロメートルに及びましたが、この間、人にもゾウにも死傷者は出ませんでした。
なぜ群れは旅に出たのか
専門家の分析によれば、この北上の背景には雲南省の保護活動の「成果」があるといいます。1980年代初頭にはわずか193頭まで減少していた雲南のアジアゾウは、長年の保護によって現在の約300頭にまで回復しました。個体数が増えたことで、従来の生息地だけでは餌が足りなくなり、群れは新たな餌場を求めて生息域を広げるようになったのです。今回の大移動も、その延長線上にあった可能性が高いとされています。
数字だけを見れば300頭という数はまだ決して多くはありませんが、その背景には数十年にわたる地道な保護の歴史があります。
今も彼らが暮らす場所――西双版納
世界中を騒がせたあの象の群れが、今も静かに暮らしているのが西双版納の自然保護区です。ミャンマー、ラオスと国境を接するこのエリアは、雲南省の中でも特に熱帯色の濃い土地で、豊かな森林がアジアゾウの生息を支えています。
余談ですが、この西双版納から普洱にかけての一帯は、プーアル茶の産地としても知られています。
象たちの故郷へ――列車で巡る雲南
2021年、世界中がその一挙手一投足を見守った象の群れ。彼らの故郷は、遠い異国の秘境ではなく、雲南省という一つの省の中にあります。
この象たちが暮らす雲南を、列車の旅で巡ることができます。それが「シルクロード・エクスプレス」です。昆明を起点に、西双版納、大理を経てふたたび昆明へと戻る周遊ルートで、あの北上劇の舞台となった西双版納も行程に含まれています。
車内環境
● 五つ星ホテルに引けを取らない寝具とシャワーなどの水回り設備
● 旅の合間に楽しめるバーラウンジ車両
● 葉巻を楽しめるシガールーム、麻雀ルーム、カラオケルームも完備
食事
● ミシュランクラスのシェフが手がける料理
● 雲南各地でその時期にとれる野菜や食材を使用
サービス
● 専属バトラーによる24時間対応
● ランドリーサービス、就寝前のターンダウンサービスも用意
訪れる主な土地
● 昆明:石林の奇岩群、滇池のほとり
● 西双版納:熱帯の森と少数民族の文化。北上した象たちが今も暮らす保護区もこのエリア
● 大理:洱海のほとりに広がる白族の街並み
昆明の喧騒、版納の熱帯、大理の湖畔――雲南が持つまったく異なる三つの表情を、「シルクロード・エクスプレス」でたどっていく旅です。