ナンの作り方、インドだけじゃない|シルクロードの新疆風ナン
「ナン」と聞いて、多くの方が思い浮かべるのは、インドカレー店で運ばれてくる、あの大きく薄く伸びた、もちもちの一枚ではないでしょうか。ふちがぷっくりと膨らみ、カレーをたっぷり絡めて頬張る――日本でもすっかりおなじみの光景です。
けれど、シルクロードにはまったく違う「ナン」の世界があることを、ご存知でしょうか。
中国西部、新疆ウイグル自治区で古くから作られてきた「馕(ナン)」は、同じ「ナン」という言葉を持ちながら、見た目も食感も、そして背負ってきた歴史もまったく異なる食べ物です。今日は、この知られざるシルクロードのナンをご紹介しながら、ご自宅のオーブンで手軽に再現できるレシピもあわせてお届けします。

一、シルクロードの「馕」とは
馕坑(ナンコウ)が生み出す、唯一無二の食感

新疆の馕は、「馕坑(ナンコウ)」と呼ばれる筒型の窯の内壁に生地を貼り付けて焼き上げます。インドのタンドール窯に生地を貼って焼く方法と、一見よく似た調理法です。けれど焼き上がる食感はまるで別物。インドのナンがふんわり柔らかく薄いのに対し、新疆の馕はずっしりと厚みがあり、表面は香ばしくパリッと、中はしっかりとした弾力を持つ、噛むほどに味わい深い一枚に仕上がります。パンというより、少し硬めのベーグルやクラッカーに近いと表現した方が、日本の方にはイメージしやすいかもしれません。
シルクロードを渡った、旅人の携行食
なぜ新疆の馕は、これほど水分が少なく硬めに焼き上げられるのでしょうか。その答えは、シルクロードの歴史そのものにあります。
古来、シルクロードを行き交った隊商(キャラバン)や兵士たちにとって、馕は欠かせない携行食でした。水分が少ないため常温でも長期間傷みにくく、砂漠を越える長旅の道連れとして、まさにうってつけの食料だったのです。乾いた馕は、時に水やお茶に浸してふやかしながら食べられ、幾世代にもわたって旅人たちの空腹と体力を支えてきました。
一枚の馕には、何千キロもの砂漠と草原を越えていった、数えきれない旅人たちの記憶が焼き込まれている――そう考えると、この素朴な一枚がずっと特別なものに感じられてきませんか。
バリエーション豊かな、馕の世界

新疆の馕と一口に言っても、その種類は実に豊かです。表面にごまをまぶした「芝麻馕」、生地に油を練り込みサクサクとした食感に仕上げた「油馕」、羊肉やクミンを混ぜ込んだ香り高い「肉馕」など、地域や家庭によって驚くほど多彩なバリエーションが存在します。
そして、喀什(カシュガル)の旧市街にあるバザールを歩けば、その多彩さを肌で感じることができます。石造りの馕坑からもうもうと立ち上る煙、焼きたての馕を高く積み上げる屋台の主人、香ばしい匂いに誘われて集まる地元の人々――出来立ての熱い一枚をその場で頬張る瞬間は、シルクロードの旅ならではの、忘れがたい体験になるはずです。
二、ご自宅で作る、簡単・新疆風ナン
本場の馕坑は各家庭にあるものではありませんが、ご自宅のオーブンでも、その香ばしさと食べ応えを手軽に再現することができます。難しい工程はありません。ぜひ試してみてください。
材料(4枚分)
● 強力粉:250g
● ぬるま湯:150ml
● ドライイースト:小さじ1
● 砂糖:小さじ1
● 塩:小さじ1/2
● オリーブオイルまたはサラダ油:大さじ1
● お好みでいりごま、ブラックシードなど:適量
作り方
1. ぬるま湯にドライイーストと砂糖を溶かし、5分ほど置いて表面が泡立つのを待ちます。
2. ボウルに強力粉と塩を入れて混ぜ、1のイースト液とオリーブオイルを加え、生地がまとまるまでよくこねます。表面がなめらかになるまで、10分程度が目安です。
3. 生地を丸めてボウルに戻し、ラップをかけて温かい場所で1時間ほど、生地が倍の大きさになるまで発酵させます。
4. 発酵した生地を4等分し、丸めてから麺棒で楕円形に伸ばします。厚さは1cm前後、本場の馕よりやや薄めにすると、家庭用オーブンでも火が通りやすくなります。
5. 生地の表面にフォークで数カ所穴を開け、お好みでごまを散らします。
6. 250℃に予熱したオーブンで、10〜12分ほど、表面にこんがりと焼き色がつくまで焼き上げます。
外はカリッと、中はもっちりとした、ご家庭ならではの新疆風ナンの完成です。そのまま食べても、羊肉の炒め物やスープと合わせても、シルクロードの旅情を感じさせてくれる一枚になるはずです。
三、本物の味は、その土地の空気とともに
ご紹介したレシピは、あくまでご家庭で楽しんでいただくための簡略版です。オーブンから漂う香ばしい匂いに包まれながら、ふと、こう思う方もいらっしゃるかもしれません。本場の馕坑が焼き上げる一枚は、いったいどれほど違うのだろう、と。

その答えを確かめる旅を、私たちは「シルクロード・エクスプレス」の今秋の行程としてご用意しています。
車窓には青海湖の碧、哈密の砂丘、輪台のポプラ並木、そして喀什の旧市街と、シルクロードの表情が次々と移り変わっていきます。移動の時間そのものも、この旅の大切な一部です。ホテルさながらの寝具と浴室、専用のバー、シガールームやKTVを備えた車内で、24時間体制のバトラーが旅の隅々まで気を配り、ミシュランクラスの食事が一日を彩ります。喧騒から離れ、ただ流れる景色に身を委ねる贅沢――それもまた、忙しい日常ではなかなか味わえない体験ではないでしょうか。
そして旅の終着点近く、喀什の旧市街のバザールで、生地が馕坑の壁にぴたりと貼りつけられ、じりじりと焼き上がっていく様子をその目で追ってみてください。焼きたての一枚を手渡された瞬間、指先に伝わるほのかな熱と、ふわりと立つごまの香ばしさは、ご自宅のオーブンでは決して再現できないものです。
ご家庭で作ったナンの香りが、ほんの少しでもシルクロードを感じさせてくれたなら。次はぜひ、本物の一枚を求めて、「シルクロード・エクスプレス」で喀什までの旅に出てみませんか。